数学オリンピック1次予選問題解いてみました ( その4 )

はじめに

今年度 ( 2016年1月 ) のJMO ( 日本数学オリンピック ) の1次予選問題を解いた、その説明の続きです。
幾何の残りとプラス1問片づけます。

目次

解説

例によって、問題文は適宜改変してますので、オリジナルについては冒頭のリンクからご覧ください。

問8

問題

  • 図中のXDの長さを求めよ
  • ただし、長さの比 AX:XD:BC=1:3:10
  • 内接円の半径は 1

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解説

答えは$\frac{3\sqrt{10}}{5}$です。

まずまあ、余りにも問題がそっけなくてとまどいます。( 例によってオリジナルの問題は文章だけです )
が、円というのはただあるだけで多くの条件を導き出せるもの、そこをどう活かすか、が鍵になります。

まずは内接円 ( 内心 ) が出てきた時の性質です。次の図のように、元の三角形は、内心と接点を使って3組6個のそれぞれ合同な直角三角形に分けることができます。

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これにより、同じ長さになるところが分かりますから文字t,x,y,zを導入し、条件にある長さの比と合わせて整理してみます。

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次にどこに着目するか。それは図の次の部分です。

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そう、この形「方べきの定理」が適用できるんですね。ここがまず1つ目の関門と言っていいでしょう。次の計算によって x が分かります。 $$ t(t+3t)=x^2 \Rightarrow x=2t $$

xが分かってしまえば、もう点Xは不要です。図を改めます。
…次にどこを見るか、ってもう図に描き込んでいるのですが、角θとφが補角 ( 足して180°になること ) の関係にあるところです。

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角度と長さの関係を余弦定理で整理してみましょう。2次式と分数が出てくるから面倒に思えるかもしれませんが、割と簡単な形で済みます。 $$ \begin{eqnarray} \cos\theta&=&\frac{y^2+(4t)^2-(y+2t)^2}{2y\cdot 4t} \\ &=&\frac{12t^2-4ty}{8ty} \\ &=&\frac{3t}{2y}-\frac{1}{2}\\ \cos\phi &=&\frac{3t}{2z}-\frac{1}{2}\\ \end{eqnarray} $$ cosφの計算の方は手抜きしてますが、y,zが違うだけなので…。対称的な文字の置き方をしたのが活きています。
さて、θとφが補角なのですから、cos同士を足すと0になるはずです。ということで、 $$ \frac{3t}{2y}-\frac{1}{2}+\frac{3t}{2z}-\frac{1}{2}=0 \\ \Rightarrow \frac{3t}{2}(\frac{1}{x}+\frac{1}{y})-1=0 \\ \Rightarrow \frac{1}{x}+\frac{1}{y}=\frac{2}{3t} \\ $$ まあ、通分して更に整理しておきますか。 $$ \frac{1}{x}+\frac{1}{y}=\frac{2}{3t} \\ \Rightarrow \frac{x+y}{xy}=\frac{2}{3t} \\ \Rightarrow xy=\frac{3t(x+y)}{2}=15t^2 \\ $$ これでx,yの和と積が分かりました。これが2つ目の関門。ここまで来ればほぼできたも同然です。
和と積が分かったので2次方程式を解けばx,yが出るはずですが、それは面倒なのでこのまま置いておきます。慌てるなんとかは…というやつです。

最後まで使ってなかったのは、内接円の半径の条件です。内接円の半径rについては3辺a,b,cから求めることができます。

それは、三角形の面積に関する「ヘロンの公式」 $$ S=\sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}\,\,\,\,\,( s=\frac{1}{2}(a+b+c) ) $$ それと、次の図のように内心を元に分割した時の三角形の面積の関係 $$ S=\frac{1}{2}r(a+b+c)=sr $$

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これらの組み合わせから、内接円の半径は、次の式で表されます。 $$ r=\sqrt{\frac{(s-a)(s-b)(s-c)}{s}} $$

ここに今の状況を当てはめてみます。

$$ \begin{eqnarray} s&=&\frac{1}{2}\Bigl(10t+(y+2t)+(z+2t)\Bigr) \\ &=&7t+\frac{1}{2}(y+z) \\ &=&12t \\ r&=&\sqrt{\frac{(s-a)(s-b)(s-c)}{s}} \\ &=&\sqrt{\frac{(12t-10t)(12t-(y+2t))(12t-(z+2t))}{12t}} \\ &=&\sqrt{\frac{2t(10t-y)(10t-z)}{12t}} \\ &=&\sqrt{\frac{2tzy}{12t}} \\ &=&\sqrt{\frac{5}{2}}t \\ \end{eqnarray} $$ これでようやくr,tの関係が分かり、$r=1$から$t=\frac{\sqrt{10}}{5}$ が出ます。なお、求めるのは$XD=3t$であることに注意しましょう。

問10

問題

次のような問題です。

  • 長さ1の円周上に2016本の旗とA君がたっている。A君は円周上を移動して、全ての旗のあるところを通ろうとしている。( 同じ場所を重複して通っても構わない )
  • このとき、次の条件を満たす最小の距離Lを求めよ。
  • 「初めの旗とA君の位置に依らず」距離L移動すれば、全ての旗のあるところを通り終えることができる。

解説

答えは、$1-\frac{1}{3\cdot 2^{1008}-2}$です。
え? 数式が答えなの? と思われるかもしれませんが、流石に実際の値はとても計算できませんし…。こういったケースでは答えが数式になることもありえます。

さてこれは問題文がふわっとしています。「初めの旗とA君の位置に依らず」「最小の距離L」…どうしたものでしょうか…?
例えば次の図のような配置の場合、片側に旗が寄っている左の配置では半周移動すれば済みますが、まんべんなく配置された右側だとほぼ1周する必要があります。

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つまり、配置毎に必要な距離というのが定まるのですが、意地の悪い配置だとほぼ1周近く必要になってくるわけです。が、たとえどんな配置であっても1近い距離を動けば全部回れるはずです。

そこで、( 全ての配置を調べることは不可能なので )「一番意地の悪い ( どんなに頑張っても一番距離を回らされる ) 配置」を見つけ、その時に必要な距離を測ればそれが答えになるのではないかと考えてみます。
※厳密には正しくないのですが、そうでないとなかなか難しいところなので目を瞑ります。

「意地が悪い」ってどういうことよ? というのは、ちょっとずつ具体例を挙げて探っていきましょう。2016本の旗だと多すぎるので、8本で考えてみます。

まずは、1周まわってきた最後の場面を考えてみます。「反時計周りだけど逆だとダメなのかい」とか今は突っ込まないでください。「反時計周りせざるを得ないほど、右や上に旗が配置されている」ものとしてください。 …そうすると、最後の旗との距離が x であれば $1-x$ の移動で回りきることができます。

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でもそうすると、x がとても小さくなったらほとんど 1 移動することになるのでは…? 実はその場合、別の移動方法が考えられます。先に時計回りに x 移動してから折り返して、改めて反時計周りで行く方法です。

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どちらの方が得 ( 短い距離で済む ) かは、さらに隣の旗との距離 ( 図中 y ) で決まるはずです。x 余分に移動する代わりに、y の移動をなくすことができますから、移動距離は $1+x-y$、先ほどの $1-x$ とどちらが小さいかに依る、というわけです。

そうすると冒頭で挙げた「意地が悪い」というのは、実は両者の移動距離が等しい、つまりどちらを選んでも得にならない ( 損もしないけど ) ということではないか、と思い至ります。ここでは、$y=2x$ ですね。

その線で考えを進めていきます。x,2xと来て次に意地の悪い配置は…? 次のように、2つ時計回りで辿ってから反時計で移動してトントンのケースですね。

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比較対象は依然として、素直に反時計周りで移動するケースです。$1-x=1+(x+2x)-y$ を解いて$y=4x$を得ます。

これで規則性が見えてきました。x,2x,4x,…と等比数列をなす距離で旗が配置されているのが「意地が悪い」と言って良いでしょう。
※数列の漸化式を計算すべきなのでしょうけど、書くのが面倒なので取り敢えず答えが求められれば良いので割愛します。

これまで反時計周りメインの移動を考えてきましたが、時計周りも選択できることから左右対称でどっち周りでも状況が同じになるのが「意地が悪い」と言えるはずです。それでは旗8本の場合の最終形はどうなるでしょうか。

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この図のように、左右対称にx,2x,4x,8xと開けて8本配置されるケースですね。で、上が結構すかすか、と。
もうyは必要ありません。これでxの条件が決定できます。 $$ 1-x=(x+2x+4x+8x)\cdot 3 \Rightarrow x=\frac{1}{3\cdot 2^4-2} $$

で、( 今更ですが ) 問題の2016本というのは偶数ですから、この8本のケースと同じように考えることができるはずです。よって、$x=\frac{1}{3\cdot 2^{1008}-2}$ と。
答えは愚直に反時計周りに移動した時の ( 行って戻っても同じなのだから ) $1-x$ になります。

やや抽象的ですが、規則性を掴みさえすれば計算自体は大変ではないという感じです。

続き

ここまでの問題なら本番でもなんとかなるんじゃないでしょうか。10問取れば間違いなく上位に入れます。( 実際にはミスがあったりでもう少し落とすかもしれませんが )